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Float/World

成人済み腐女子の雑記帳。初めての方は''このサイトについて''をご覧ください。

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沖縄日記

 行った場所で名前が分かっているところ https://www.google.com/maps/d/u/0/edit?mid=zwXzZhAijZdQ.kazdRbLpvRTY

 一日目の昼食として、空港内のA&Wという沖縄名産のハンバーガー屋さんで、一番人気のバーガーととても美味しいと聞いたオレンジジュースを買う。レンタカーの後部座席に乗り、車窓の景色を眺めながらそれを食べる。オレンジジュースはオレンジ特有の酸っぱさがそれほど主張してはいずしかし砂糖のそれとも違う嫌味のない甘さで思わず声を上げるほど美味しく、バーガーのほうはフレッシュな素材の味を生かしたあっさりとした味付けでこれまた美味で、すぐに平らげてしまった。

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 車の外には沖縄ならではのものがいくつも見られた。道路脇に植えられたパイナップルに似た実をつける南国の木、アメリカ軍保有を示すYナンバーの車、店や民家の軒先にシーザーの置物、宴会を催すという大きな墓、本土では見たことのないコンビニ、台風に耐えるための平たい屋根の建築、風に揺れる想像より背の高いサトウキビ畑…。ただ、人間の生活圏内らしい雑多な施設に溢れているのも事実で、観光名所としての面は一面に過ぎず、それ以外の部分は地方都市と変わりないのだということを徐々に理解していった。
 車に乗ってすぐ降り始めた雨は強さを増し、残波岬に着くころには台風の中のように風を伴って激しく叩きつけてきた。溶岩の中を歩き至った岬には青い海から波が打ち寄せ、遠くの方は白くけぶっていた。白い灯台と和服を着た人物の像、台風で動いたという大きな岩以外に視界を遮るもののない岬は天気の良い日には大変美しい場所なのだろう。しかしこの時は雨風に逆らって歩くのが精いっぱいで、風景を楽しむどころではなかった。一緒に来た人たちとホットリミットごっこをしながらも、この旅大丈夫なのかな…、という微かな不安を覚えざるを得なかった。本土の人間にとってこの荒っぽ過ぎる歓迎は、強烈な洗礼として全身を湿らせる結果に終わった。

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 だが沖縄の空は私たちに味方した。再び車に乗り宿を目指していると、雨は止み雲の隙間が見え始め、次第に青空に変わっていった。道中何度か通り過ぎたビーチを見かけて、同乗者の方がどこか寄らないかと提案する。日の落ちる前に、晴れている間に、海で写真を撮りたい。私たちは賛成し、人気はないもののきちんとした駐車場のある小さなビーチに停まった。

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 暮れなずむ空と海を背景に、私たちは思い思いに写真を撮り、波に足を浸し、沖縄の自然と触れ合った。この砂浜に降り立って初めて、私は初めて沖縄に来たという実感を得た。足の裏に感じる砂粒は心地よく、透き通った海水は美しく、何度も膝まで浸かっては波打ち際に戻るのを繰り返した。日が沈んでから薄暗くなるのは早く、ほの紫の空に満月に近い形の美しい月が浮かんだ。砂浜に別れを告げ、自販機で買った水で足を洗った。

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 宿は標高の低い山の上にあった。引き戸のついた門をくぐると、そこには赤い瓦屋根の平屋の古民家が。縁側と日本家屋らしいガラス戸の向こうに暖かい明りに照らされた室内が見え、私は思わずただいま、と言っていた。中に入り荷物を入れ、しばらく室内を見て回る。柱や床の木、畳の質感、年季の入った調度品ならではの艶、台所のアットホームさ、ホテルとは違った心配りのアメニティの数々。何より私たちが惹かれたのは縁側だった。庭に向って張り出したその部分に座って足を投げ出す。視界に入るのは芝生と岩とシーザーの置物と彼岸花。家の屋根と同じ瓦を乗せた塀の向こうには、ぽつぽつと民家の明かりがともる夜景。そして、上を見れば、中秋の名月の一日前の美しい月が、雲の中に浮かんでいる。夜気は涼しく心地よく、自分を包む非日常の世界の美しさに、「来てよかった」と漏らしていた。

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 宿の中の探検を一通り終え、夕飯の買い出しのため再び車へ。地元のスーパーでカートを押しながら決めたメニューは、焼きそば。6人分のそれを作るための野菜や麺や肉、付け合わせのサラダや刺身、つまみのチーズちくわの材料などをかごに放り込んでいく。店内には沖縄ならではの野菜や麺の種類、ちんすこうなどのお菓子や大量のスパム、シークワーサーやサンピン茶といったペットボトル入りの飲料など、本土民には新鮮な品がいくつも溢れていた。私は今宵の酒は沖縄名産オリオンビールと決め、缶一本を買い求めた。レジで対応してくれたのは地元の同級生とみられる清潔感のある少年二人で、彼らに商品をレジ袋に詰めてもらい、買い物を終えた。
 宿に戻り、交代で風呂に入ったり夕食の準備を進めたり、今日撮った写真を見返したり雑談に花を咲かせながら思い思いに過ごした。宿泊客が書き込むためのノートが置かれており、それに友達が絵を描いていた。料理をしてくれたのは関西出身の男性二人で、FateのBGMを流しながらの作業は非常に様になっていた。風呂が私の番になり、入ると中は広く湯船もあり、シャワーは二つついていた。急いで洗ったつもりだったが、風呂を出ると食事の支度はほとんど終わっており、手伝えなかったことを申し訳なく思った。席につき、乾杯。大皿に用意された料理をそれぞれの皿に取り、談笑しながら食べ進める。まずは自己紹介。皆が活発的な趣味について語るのを聞きながら、何も誇るものを持たない私は少しだけ肩身が狭かった。静岡の高専に3年間在籍し、趣味は読書と同人音楽と映画を観ること。それでも、5人は様々に相槌を打ってくれたり話を広げたりしてくれ、あまり趣味を認められたことのない私は、とても嬉しかった。共感とか賞賛が欲しいわけじゃない、ただ否定せず聞いてもらえたらそれでいい。今まで人の輪の中にあってもあまり自分を主張せず受け入れられることもなく生きてきた私にとって、この旅で誰かが話しかけてくれたり私の言葉を捉えてくれたりすることは非常に珍しいことであり、つい舞い上がって要らないことまで言ってしまうという失態も犯したりもした。旅と言う非日常、南国の大気の中に身も心も解き放たれたあまりの失言だと思って許してもらえればと切に願うが…。
 夜が深まっていくにつれて皆が席を離れて自由に話すようになり、その中で私は嬉しい言葉をふたつもらった。一つは、同じ静岡出身の友達の口から出た、私の雁夜くんに対して語っているのは良い、という趣旨の言葉である。それまで私はTwitterで妄想と公式の区別がつかないような妄言を好き勝手呟き、原作を汚し、ファンにも非ファンにも失礼な振る舞いをし続けてきたと思っていたから、まさか私のそれらを読んでくれている人が好意的に受け取ってくれているとは夢にも思わなかったのだ。雁夜くんの性格や過去を考察し、何が好きか何を持っているかを想像して同じものを集めて嗜み、自分の中の雁夜くんに肉付けをしていくような作業的思考は私の趣味と言ってもよく、しかし決して他人には受け入れられるようなものではないと常々思っていたため、彼女の言葉は衝撃にも近かった。そのときはじめて、私は、ああ、いいんだ、と思うことができたのである。彼女のように捉えてくれる人もいる。行き過ぎは良くないことは確かだが、こんなふうに自分の趣味を否定も無視もせず微かにでも好ましく思ってくれている人が居るという事実は、私を幾分か安心させた。彼女には感謝したい。
 もうひとつは、旅行の企画者の方の言葉。彼がくれた言葉の数々は私の価値観を根底からひっくり返すものであり、負の連鎖に陥りかけていた思考を広い世界から差し込む光で照らしてくれた。詳しく書くのは機微に触れるので憚られるが、主旨は個人的な日記に覚えている限りすべて書き留めてあるので心配はいらない。とにかく、私は思い知ったのだ。人と話すことの大切さ、見識を広めることの重要性、そのかけがえのない価値を。彼には感謝が尽きない。つまらないことで悩み続ける私にたくさんの言葉をくれた。広い世界に目を向けさせてくれた。この夜の貴重な教訓を裏切らないように、頑張ろうと思う。
 惜しむらくは、縁側で彼と話している間に中で夕食の片づけがすべて済んでしまったことだ。私が気が付いて戻った時には、布団さえ敷かれていて、同行者たちの手際の良さと自分の気の利かなさに二度ため息を吐くことになった。
 薬を飲んでからの記憶は薄く、布団に横たわった記憶さえない。この夜は薬の効きが早かったようだ。とにかく、私は自分でも知らぬ間に眠り、沖縄での一日目を終えていた。

 翌朝、風がガラス戸を揺らす音で目が覚めた。まだ眠っていたいな、と思いながらも意識は朝へと浮上する。私のほかに起きていた関西出身の男性の方に倣い、私も体を起こす。ふたりで縁側まで行き、少し話し、また中に戻ってきた。私は再び押し寄せた眠気に勝てず、二度寝してしまった。
 目を覚ました時には、私の隣の人以外は全員起きていて、私も時間をかけて起き上がった。コスプレを撮ってもらう予定があるため、顔を洗い、化粧を始める。女子高生になった私は、カメラマンさんに縁側や庭で写真を撮ってもらい、自分の姿勢の悪さやポージングの甘さに辟易としながらも、沖縄ならではの作品を残すことができた。
 そうこうしている間に、他の人たちは宿を出るための支度をほとんど終えてしまったというので、また申し訳なく思いながら、私も急いで荷物をまとめた。忘れ物が無いことを確認して、皆で縁側に出る。最後に、集合写真を撮ろうと提案した。縁側に並び、三脚を使って写真を撮る。私たちの頭上では、天気予報の外れた空が青く輝いていた。

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 宿に別れを告げ、向かうのは古宇利島。海中道路を経て至る美しいビーチを持つ島である。そこで海水浴をするため、男性たちは途中イオンに寄り、サンダルや水着を買い求めた。店内でブルーシールの店舗を見つけ、そこでシークワーサーアイスを買う。さわやかな柑橘系の味は他のフルーツのそれとは異なり、後味もすっきりとしていてしかし酸っぱいわけではなく、非常に好ましい味わいだった。ほかの方が選んだサトウキビ味を賞味させてもらうなど、アイスを堪能し、再び車へ。

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 古宇利島が前方に見え始めると同時に、そこへまっすぐに伸びる道路、そしてその両脇の美しい海が目に入った。

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 沖縄の海と言うのは不思議なもので、比較的水深の浅い澄んだ青緑から混じりけのない青へのグラデーションで成っているのだ。更にその色彩を引き立たせるのは踏むとざくざくと鳴る砂やサンゴの欠片が敷き詰められた砂浜で、これがまた鮮やかな黄土色をしていて南国らしいのだ。波打ち際から少し離れたところには変わって真っ白な細かい砂が輝いており、浜辺の朝顔のような美しい緑がその上を覆っていた。強い日差しの下、すべてが色鮮やかに見える世界を、私たちはビーチに向って進んだ。昨日の夕暮れの海も哀愁があって美しかったが、すべてが生き生きとして見える真昼の海はやはり魅力的で、人や風景に向けて何度もシャッターを切った。岩の上に立ったり、昨日の海寄りは冷たい波に足を洗われたり、水をかけあって遊んだりしているうちに、時間が訪れる。潮の満ち引きか風の関係か最後には波の強くなった海を去り、車へ戻る。宿で用意した水道水で足を洗い、出発すれば、目指すのは別れの場所だった。

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 道が混みあっていたこともあって、慌ただしく那覇空港に乗り入れ、関東へ帰る三人が放り出された。短く別れの言葉を交わし、急いで窓口へ。手荷物を預けた先の小さな土産物屋でそれぞれ土産を買い、搭乗口に向かった。私と静岡の友達は席が隣同士で、飛行機の中までも一緒にいられたが、もう一人の男性の方とはそれきり離れることになってしまった。彼とちゃんと挨拶をできなかったことが悔やまれた。
 帰りのフライトでは、徐々に朱色から紫へ、紫から暗色へ落ちていく世界の中、眠ることもできずただぼうっと音楽を聴いていた。用意していた本は行きの便の中で読み終わってしまっていたのだ。沖縄で体験したこと、もらった大切な言葉が頭の中を巡り、それほど退屈はしなかった。飛行機が高度を下げ、地上へと迫る。窓の外には光る宝石を細かく砕いて洞窟の中に配置したかのような美しい夜景。地上から見る夜景と違い、より高い場所から見下ろすそれは自分と言う存在の小ささを思い知らせるものであり、私は帰路につきながらにして再び非日常の感覚にとらわれていた。この美しい刹那の光景を誰かに見せたい、と思っていたら、何故か飛行機の機首は上がり、しばらくしてアナウンスが流れ始める。空港上空に発生した霧により着陸をやり直すことになったらしい。終電に間に合うのか、と不安を抱き、着陸し飛行機を出てすぐ電車の時間を調べた。なんとか、最速の便で行けば終電には間に合うようだった。友達と同じ成田エクスプレスに乗車、違う駅で降りるため彼女とは窓越しで別れ、新幹線のホームを目指す。無事に帰るまでが旅だ、と言い聞かせながら辿る道筋は、日常の中に戻っていく作業のようで、少し寂しくもあった。新幹線に無事乗車、充電と戦いながら三島に至り、乗り慣れた東海道線に乗り換えて実家の最寄り駅に向かった。私を迎えた故郷は、いつもの闇、いつもの匂いでそこにあり、そこで私を待っていてくれた親の車に乗り、家の玄関をくぐって、私の旅は終わった。
 良い旅だった。来てよかった。その二言に尽きると言って過言ではない。多くのものを得た。それは日常の中、地元で限られた人々と交流するだけでは手に入らなかった体験だ。はらはらすること、やってしまったなと思うこともたくさんあった。それでも、これが私の旅だったのだ。私はこれを肯定するし、反省すべきところは反省して次回に繋げていく。旅は、人生を一歩進ませるためのものだと思う。違う土地に足を運び、珍しい人と言葉を交わして、そこで非日常の中で解き放たれた自分を発見して明日からの日常に生かしていく。私なりに見出したこの意義が果たして正答かどうかは分からないが、ともかく私にとって旅がもたらしうる効果を初めて学んだ。
 旅をしよう。これからも、行き詰っていても、行き詰っていなくても、時折、外の世界を見に行こう。私は何度だって人生をやり直すのだ。行って、帰ってくるたびに、私は何度でも生まれ変われる。
 世界に向って旅立ったある人のように、私もいつか再び海の向こうの最愛の地を踏めることを願って。




 *他の人の撮ってくれた写真コーナー*

 あらなぎさん

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 すごい上手!

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【TOA】その手に清流のきらめきを

 ジェイドがキムラスカへ親書を届ける旅に出る前のピオニーとのやり取りを描いたお話です。一部設定を捏造しています。

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 レムの光に透かしたその輝きは
 あなたが待つ都を流れる水の清冽なそれに似ていた



 その手に清流のきらめきを



 グランコクマを発つ前に必ず寄れ、と言われていた。
 敵国キムラスカを訪れ親書を届けよという特命。導師イオンの後ろ盾があるからと言って、危険であることには変わりない今回の任務。それを命じた人物が、最後に付け足した命令。それに従い、私は宮殿の広間を歩いていた。
 謁見の間の下に設けられた私室の前に立ち、手袋をした手でノックをする。
「入れ」
私が名乗る前に、応じる声があった。ドアを叩くいつものリズムで客人が誰か分かるのだろう。何千回と繰り返してきた行為とは言え不用心なことだ、と思いながらドアノブを回す。
「失礼します」
青を基調とした応接室は、奥にある家畜小屋(と私が呼んでいる部屋の持ち主のごく個人的な空間)とは異なり、メイドによる手入れが行き届いていた。今はいつもここに控えているメイドの姿はなく、部屋の中央にあるテーブルの奥の椅子に、私を呼びつけた人間がどっかりと腰を下ろしている。
 彼は私の姿を認めるなり、悪童のように砕けた笑みを浮かべた。
「待ちくたびれたぞ、ジェイド。すっぽかされたかと思ったぜ」
私に軽々しい挨拶を投げかけるのは、この国で最も尊い位に就く人物。無造作な風体ながらも貴石のような気品を感じさせ、青い眼差しの奥に聡明な光を宿した若い男。
 彼こそ、巷でピオニー・ウパラ・マルクト九世と仰がれるマルクト帝国の皇帝その人だった。
 しかし、私はそんな貴人を前にして、悠然とした微笑みを返す。
「そんなことするわけないじゃないですか。勅命を反故にしようものなら後が面倒ですからね、あなたは」
「勅命って言うな。俺とお前の仲だ。この場合、約束だろ?」
唇を尖らせるピオニーに、私は首を振った。
「誰が誰とどんな仲だと言うのです? あなたとは上司と部下以外の関係の何物でもないと思いますが」
白々しく言い放つと、皇帝は大袈裟にため息を吐いて見せる。
「それ以上の関係でなけりゃこんなことはしないと思うがな。まぁ座ったらどうだ」
このようなやりとりを、私たちは数えきれないほど繰り返してきた。実際彼と私は幼少期を共に過ごした幼馴染である。そのことはよく認識しているし、世間で言う旧友の定義に自分たちが当てはまることも理解していないわけではない。しかし、ひとえに私が彼との関係を淡白なものであるかのように振る舞うのは、公の場での対面を取り繕うためであった。
 ピオニーは皇帝、私は一介の軍人に過ぎない。しかし、幼馴染であり最も信頼のおける部下である私を、彼はたびたび重用し、重要な任務を与えてきた。使命には忠実に従い完璧にこなす私についた異名は、『皇帝の懐刀』。
 それには、大佐という身分を越えて皇帝に寵愛され、軍で暗躍する私を揶揄する意味もあったのだろう。私たちが少年時代から親交があることを、この国の上層部の人間であれば知らない者は少ない。
 だからこそ、親密さを公言しこれ以上の波風を立てるわけにはいかなかった。風当たりを避け、公務を円滑に行うために、私は敢えてピオニーに対して軽薄な態度を取り続けているのだ。彼も私と同じで、幼馴染同士親しくすることで生まれる周囲との軋轢は望んでいないと信じて。
 勧められるまま、私はピオニーの隣の椅子へと座る。
「出発の時間が迫っているので手短にお願いしますよ、陛下」
おそらく彼は、国外へ旅立つ私との別れを惜しむために、このような個人的な呼び出しを行ったのだろう。私の予想は当たっていた。先程まで陽気さに溢れていたピオニーの表情に、今はそれが、ない。
「ジェイド、お前に渡すものがある」
真剣な声音で言うと、ピオニーは懐からはさみを取りだした。はさみ自体は何の変哲もない物だし、それを私に持って行けと言うつもりで無いことは明らかだった。
 しかし、次の瞬間私は目の前の光景に動揺した。ピオニーがはさみの切っ先を自分の首に向けたからだ。
「何をするんです、陛下」
血迷ったのか、と制するように手を伸ばす。しかし、ピオニーは不敵に微笑んだだけだった。
「察しが悪いな、ジェイド。まぁ、無理もないか。黙って見てろ」
そう言って、水流のきらめきを閉じ込めたかのような髪飾りで束ねてある髪を掴む。意味するところを悟り、あ、と声を上げそうになる。
 さく、と軽い音が部屋に響く。ピオニーは一切躊躇うことなく、自身の美しい金髪を青い宝石ごと切り落としてしまった。
 彼は髪飾りにまとめられた髪束を差し出して言った。
「こいつを俺の代わりに持って行け。肌身離さず持ち歩けば、お前の身を守るだろう」
私は数瞬呆気にとられたのち、手袋を外してピオニーの額に手を当てた。
「…何をしている」
怪訝そうな顔をする彼に、私はごく冷静に答える。
「いえ、熱でもあるのではと思いまして」
「んなわけあるか。俺は真面目だ」
ピオニーに手を払われて、私は眉をひそめた。
「正直言って気持ち悪いですよ。誰がおじさんの髪をお守り代わりに持ち歩きますか」
「俺の幼馴染のジェイドってやつなら、口ではそう言いつつも大事にしてくれるもんだと思っているんだがな」
ピオニーは私の手をつかみ、髪飾りを載せた。冷たい宝石とさらさらとした髪の感触は、それを拒む私の意に反して心地よかった。
 私は嘆息し、肩をすくめる。
「あまり私を買いかぶらないでいただけますか。このようなものは受け取れません。お返しします」
そう言って手のひらをピオニーに突き出す。しかし、彼の両手は私の手を包み、髪飾りを握らせてしまった。
「陛下」
諌めるように名を呼ぶと、ピオニーの視線が私を制した。彼の迷いのない声が言葉を紡ぐ。
「確かにこれは俺の母の形見で、幼い頃から手離したことのない品だ。だからこそお前に持っていてほしい。そして無事に帰ってきて、俺にこれを返すんだ」
私はかぶりを振った。彼の眼差しを振り払うかのように、強く。
「そんなに大切なものは、私の身に余ります。どうかご自身の立場を考えていただけませんか」
声に困惑の色を滲ませて言う。しかし、ピオニーは引かなかった。
「何を言う。お前が大切だから、渡すんじゃないか。決して分不相応ではないぞ、ジェイド」
「ですから、そのお気持ちが過分だと申し上げたいのです」
「なんだ。皇帝の俺は、大事な幼馴染の息災を祈ることも許されんのか?」
理解できない、と言いたげにピオニーは顔をしかめる。私は微かに苛立っていた。賢いはずのピオニーが私の懸念を解しないことを、不思議に思う感情さえ湧いてくる。どうして分かってくれないのか。すでにお互い了承できているとばかり思っていたことを、皆まで言わせるのか、と。
 私は語気を強めて諭そうとする。
「そういうことではありません。陛下、私を特別扱いするのは余計な波風を立たせる危険な行為です。公的な場では極力私を他の家臣と同様に扱っていただかないと―――」
その時、ピオニーの目に鋭い光が浮かんだ。
「ここは公的じゃない。ごくごく私的なやり取りだ。公私混同しているのはお前のほうじゃないのか? ジェイド」
私ははっとして、返答に窮した。何も言い返せなくなり、押し黙ってしまう。ピオニーの言うことは、私の痛いところを突いていた。
 公的な場での体面を気にするあまり、ごく個人的なやり取りにもその空気を持ち込もうとするのは、割り切りができていない証拠だ。本来ピオニーとの一対一の場面でまで、私は警戒心を解くことなく頑なに振る舞う必要はないのだ。
 湧き上がる自責の念と、ほんの少しの悔しさ。胸を焦がすものに何もないところを睨んでいると、ピオニーの私の手を握る手に力がこもった。顔を上げると、彼の真っ直ぐな瞳と目が合う。
「ジェイド、お前の心を教えてやる」
彼は澄み切った声と瞳で、告げた。
「お前は、身分の差を理由に俺の気持ちから逃げようとしているんだ。俺が皇帝だから。自分が一介の軍人だから。そうしたところで、お前はお前自身の気持ちから逃げることはできない。いくら走っても、自分から逃げることはできないんだ」
「私は、逃げてなど」
「逃げているさ。その証拠に、お前は例え俺と一対一の場であろうと敬語を外さない。あくまで自分は臣下、という顔をして取り澄ましている。俺はそれが気に入らん。俺だけの前でくらい、俺の唯一無二の親友として、堂々としていろ」
清澄な意志を言葉に込め、ピオニーは言い放った。
 認めるしかなかった。私が今までピオニーの親友としての私を殺し続けてきたこと。私が本来あるべき姿は、彼の第一の忠臣ではなく、彼と心を分かち合った幼馴染なのだということを。
「…仕方ないな。こうすれば満足か、ピオニー」
私が観念して名前を呼ぶと、ピオニーの表情がふっと和らいだ。氷が解けるかのように微笑み、大きく頷く。
「おう、それでいい。もちろん人前でそうしろとは言わんさ。公務に支障を来してお前の立場を危うくしたくないからな。ただ、こんなふうにふたりきりの時は名前で呼んでくれ。
 …そうすれば、この窮屈な宮殿でも、お前の前だけでは息をつくことができる」
太陽のような笑顔のまま、しかし落ち着いた声でピオニーは言った。きっとそれは彼の本音だった。
 この世界の半分を統べる若き皇帝。彼の肩にのしかかる重責。ピオニーはそれから死ぬまで逃れることができない。その命が尽きる時まで、身命を国に捧げ、生涯孤独な戦いを続けることになるのだ。
 そんな彼の傍に、私がいなくてどうしよう。彼の親友である私が彼を支えなくて、誰が支えるというのだ。
 私は手の中に視線を落とし、自らの意志で髪飾りと髪を握った。
「これは、受け取っておく。借りっぱなしは気分が悪いから、必ず返しに来る。その時まで、待っていてくれるか」
私は必ず帰らねばならない。ピオニーの待つこの国へと。彼が彼の国民のために待ち望んだ、平和を携えて。
「無論だ。俺は辛抱強いんだ。お前が無事に戻ってくるその日まで、この国は俺が守るさ」
私が死んだら、ピオニーは心を許せる者を失うことになる。それだけは断じてならない。彼を一人にするわけにはいかない。何故なら、私は。
「頼んだぞ、ピオニー。
 …もう行かなくては。あなたも、どうか無事で」
…ピオニーの部下だからだ。彼の命令には必ず従う。不可能も可能にしてみせる。それを、彼が望むなら。そして、それ以前に。
「ああ。待っているぞ、俺のジェイド」
 ―――私は、ピオニーの友達なのだ。友達との約束は、守らなければ。




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あとがき

 ここまで読んでくださってありがとうございました! ピオニーの髪飾り、きっとお守りにしたらとてつもないご利益がありそうだなと思い、それならキムラスカに赴くジェイドに持たせて無事を祈っちゃったらいいよ!と妄想し、小説の形にしました。水色の宝石とピオニーの髪との取り合わせ、きっと綺麗だろうし、ジェイドが旅先の宿でこっそり取り出して眺めてたりしたら素敵だと思うんですよね。そしてグランコクマに戻ったら真っ先に返しに行く、と…。

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麻島葵

Author:麻島葵
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